著作権訴訟から Studio 2.0 へ:Suno はガチャ機からワークステーションに作り替わろうとしている
林政賢 ·
Suno は同時に二つのことをしている。一方で法廷でレコード会社と戦い、もう一方で自分を「ガチャ機」から本物のワークステーションに作り替えている。この二つが、映像を作る人がこの先安心して使えるかどうかを決める。
まず裁判の話。商用できるかどうかはここで決まる
2024 年 6 月、全米レコード協会(RIAA)が大手三社を代理して Suno を提訴した。著作権で保護された録音物を無許可で大量に複製し、モデルの学習に使ったという訴えだ。争点は二つ。学習データは合法か、そして生成物は原作の代替になるか。Suno の立場はフェアユース——モデルが学んだのは音楽の構造であって、複製ではない。
2026 年 8 月時点で、状況は「一つの裁判」ではなく三本の戦線になっている。
⚠ 2026 年 8 月の著作権戦況
ワーナー:和解し、ライセンス契約を締結。大手三社で最初に「訴える側」から「組む側」に変わった。
ソニーとユニバーサル:まだ争っており、対象を六万曲以上の録音に拡大しようとしている。Suno は裁判所に却下を求めている。
ドイツの GEMA:2026 年 7 月 31 日にドイツで勝訴。
BMG:2026 年 8 月、Suno とグローバルな AI 音楽アライアンスを発表。Suno が近く出す「音楽業界と共同開発した」新モデルに合わせたもの。
これは何を意味するか。風向きは「学習データは合法か」から「誰が誰とライセンスを結んだか」へ移りつつある。ワーナーと BMG の動きは、おそらく今後の雛形だ。権利プールがあり、分配があり、モデルは許諾済みの素材で学習する。AI を生産性の道具として使う私たちには朗報だ——合法な道が舗装されつつある。ただ、まだ舗装は終わっていない。
だから現時点の実務判断はこうだ。Suno を提案用デモ、社内動画、SNS 素材に使うのは問題ない。大型予算の商業納品に入れるなら、契約書に「AI 生成音楽の権利帰属」を先に明記すること。AI 生成物は多くの国でまだ著作権保護を受けにくいからだ。
Studio 2.0:ガチャからワークステーションへ
2026 年 8 月 13 日、Suno は Studio 2.0 を出した。Studio は 2025 年 9 月に登場したワークステーションで、2.0 はユーザーが一年間求め続けたものを補った。
- MIDI の録音と編集——最も要望の多かった機能。自分で弾いた一節をプロンプトにもできるし、MIDI エディタで音符やベロシティを直せる。
- ウェーブテーブル・シンセと自作エフェクト・プラグイン——与えられた音色しか使えない状態ではなくなった。
- トラック・オートメーション——音量やエフェクトの時間変化。DAW の基本が、ようやく入った。
- より高品質なステム分離——ボーカル、ドラム、ベース、その他に分けて個別に処理できる。
- セッション全体を見るチャット・アシスタント——「二番のサビのドラムをもっと重く」と言えば、どのトラックの話か分かる。
映像を作る人にとって、このバージョンの意味は「生成がより良く聞こえる」ことではない。「生成したものを、ようやく自分の既存の工程に持ち込める」ことだ。以前の AI 音楽は一塊の波形で、直せなかった。今は分解でき、編集でき、書き出せる素材になった。
Suno の素材を DAW に持ち込む三つの手順
① 分離して書き出す。Studio で気に入った区間を選び、主要な楽器をステムに分け、MIDI にできる部分は MIDI で書き出す。
② 音色を差し替える。Logic Pro、Ableton Live、Cubase に取り込み、MIDI を使い慣れた音源(Serum、Kontakt など)に割り当てる。音の解像度がすぐに変わる。
③ 編集点に合わせる。AI 特有のリズムのずれやベロシティの粗さは、MIDI エディタでクオンタイズとベロシティを微調整し、強拍を映像の編集点に正確に合わせる。
この「AI が骨組みを決め、人間が細部を磨く」分業は、ミックスのすり合わせ時間を大きく削り、AI 音楽が商業スタジオの工程と噛み合わなかった長年の痛点を解消する。
話しかけるときの三つの習慣
Studio 2.0 のチャット・アシスタントは飾りではないが、聞き方がある。通じやすくする三つの習慣をまとめた。
- 感覚ではなく層で話す。「ボーカルはドライのまま、ドラムに 15% の Room Reverb」は「もっと空間感を」より十倍通じる。
- 時間を指定する。「[0:45] 以降」のようなタイムスタンプを付けると、曲全体ではなくその区間だけ直す。
- 構造を固定する。「A メロからサビまで 128 BPM を維持」——明言したことは守り、言わなかったことは勝手に発揮する。
以前は使える版を引くまで 20 回引き直していたのが、今は構造の修正はほぼ 3 回のやり取りで終わる。浮いた時間はサウンドデザインに回す。作品集の劇伴に自信が持てるのはそのためだ。
玩具ではなく、生産ラインの一部にする
AI 音楽の後半戦は、誰が速く生成するかの勝負ではない。「生成 → 二次編集 → 体系的に保存」のループを先に閉じた者の勝ちだ。三つのこと。
- 自分のプロンプト・モジュール庫を作る:よくある需要(サスペンスの雰囲気、速いテンポの EC、ポッドキャストの OP)ごとにパラメータ化した構造指示を用意し、毎回ゼロから引かない。
- AI + DAW のハイブリッド工程:AI は骨組みと音色の下敷きだけ。編曲の層とミックスは人間が握る。そうして初めて成果物に個性が出る。
- 素材に名前を付ける:「スタイル_感情_bpm_長さ」のような命名規則で、素材を再利用できる資産にする。ディスクの中の wav の山にしない。
創作の論理が「インスピレーションを待つ」から「素材庫を管理する」に変わって初めて、時間を物語そのものに戻せる。それがコンテンツを作る人の本当の堀だ。
この記事について:訴訟の時系列(RIAA が 2024 年 6 月に提訴、ワーナーは和解しライセンス締結、ソニー/ユニバーサルは継続し拡大を要求、GEMA は 2026-07-31 に勝訴、BMG は 2026 年 8 月にアライアンス)と Studio 2.0 の発表日(2026-08-13)および機能一覧は、Suno の公式発表と Music Week などの報道による。2026 年 9 月に最新状況で全文更新し、旧版のダウンロード上限に関する段落は検証できなかったため削除した。
著者:林政賢(監督 · Gen AI クリエイター兼エンジニア · 瑭宜影像創意工作室 創業者)